1980年代後半から少しずつ日本に持ち込まれるようになったRUF。当時、世界最速の称号を手にした「イエローバード」の存在、そしてRUF社のテストドライバーであったステファン・ローザ氏が、ニュルブルクリンクサーキットをタイヤから猛然を白煙を上げながらテールスライドさせつつ掛け抜けて行く映像に釘付けになったという方もいるはず。そんなRUFコンプリートカーが、海外へ輸出されたり、生まれ故郷であるヨーロッパへと里帰りしつつあるようです。
RUFはチューニングメーカーではなく、自動車メーカー
RUFはポルシェのチューニングメーカーと誤認されがちです。実は、1981年に自動車メーカーとして認可されているのです。件の「イエローバード」が、フォルクスワーゲンのテストコースにおいて333.9km/hの記録を打ち立てたのは、それから6年後の1987年。さらに翌1988年には、auto motor und sport誌主催における最高速テストにおいて、この記録を更新する342km/hを樹立しています。このときのライバルはフェラーリF40やポルシェ959やAMG300E5.6ハンマーモデルなど、並み居る猛者をを実力で抑えたことから、その名を世界に知らしめました。
当時、輸入車を専門とした各自動車専門誌でも取り上げられたこともあり、現在のアラフォー世代以上にとってはRUFというクルマは神格化された存在といえるでしょう。そして、930時代のRUFの存在を知らないはずの世代は、ドライビングゲームを通じてRUFというメーカーを知ることとなるのです。
RUFの研究開発を担ったBTR NATO。そして、最新のテクノロジーを内包するRUF CTR 2017
いまとなっては忘れ去れつつあることかもしれませんが、RUFにはSC時代からコンプリートカーが存在していたのです。NAエンジンではSCベースのSCR、そしてカレラベースのCR、この名称は964になっても引き継がれていきます。そして、ターボ系では、BTR3.3がその原点となります。その開発車が、オリーブドラブと呼ばれるマットカラーでペイントされた、通称「BTR NATO」。このプロトタイプおよび後にBTRIIIをベースに造られたNATOも日本の地を踏んでいます(プロトタイプは日本でレストアが施され、いまも健在。BTRIIIベースのNATOは、あるポルシェ専門店関係者が所有していることは確認しているが、現時点で日本にあるかは不明)。
●Ruf BTR NATO プロトタイプ
http://www.oldboy-village.com/oldboy/
RUFコンプリートカーの真骨頂は、自社で開発したオリジナルのパーツをポルシェ911に組み込み、RUF社が考える「その時代の理想とする911像」を体現していることはいつの時代も変わりありません。930時代はホワイトボディをポルシェ社から入手し、エンジンブロックは930ターボのものを基に造られているのです(但し、BTR時代。CTRではよりRUF独自のパーツが用いられている)。
2017年3月にスイス・ジュネーブショーで突如ヴェールを脱いだRUF CTR 2017。イエローバード生誕30年という節目の年に併せて誕生したこのモデルは、見た目こそ964時代の911を感じさせるフォルムながら、モノコックボディとパネルはカーボン製。サスペンションは前後ともにプッシュロッド式のスプリングとダンパーを採用し、レーシングカーさながらの仕立てとなっています。また。シャシーもRUF独自に開発したものです。かつて、エレクトリック・クラッチ・システム(EKS)や、インテグレート・ロールケージなど、独自のアイデアをコンプリートカーに投入してきたRUFは、クラシカルな外観に、最新のテクノロジーを惜しげもなく投入してきたのです。
RUFが最も日本に持ち込まれたのは930時代だった?
バブル景気と人とは違うクルマを所有してみたいという、2つのニーズが求められたとき、日本車・輸入車を問わずさまざまなカスタマイズやチューニングが施されました。現代のように低燃費や安全性、環境への配慮などのニーズが重視される時代ではなく、「大排気量、大パワー」がもてはやされた時代が確かに存在したのです。
輸入車であれば、メーカーのフラッグシップモデルや最上級グレードを所有することが是とされ、それでも飽き足らない、より人とは違うものを所有したいという欲求に対するひとつの回答として、AMGやアルピナ、ケーニッヒなどのコンプリートカーはうってつけの存在だったといえます。
そのなかで、RUFというメーカーは異色の存在だったのかもしれません。本来であればフロントフードにポルシェ車を示すカラークレストが鎮座しているところに「RUF」のエンブレムが奢られています。可能な限り「PORSCHE」の文字が「RUF」へと置き換えられてはいるものの、決してその存在を誇示することなく、「本家ポルシェを凌ぐ高性能と控えめな外観」という、何とも通好みな仕立てが、豊富な資金を持つ硬派なポルシェ遣いに受け容れられたのです。こうして、通称ビックバンパー、930型911をベースとした3.2L/3.4エンジン搭載する、NAエンジンのCR、3.3L/3.4L シングルターボのBTR、そして、イエローバードを想起させる3.4L ツインターボエンジンを搭載するRUFコンプリートカーが次々と日本に上陸を果たします。
止まらぬRUFコンプリートカーの海外流出
歴代のRUF CTRの生産台数が30台前後といわれているように、RUFコンプリートカーは少量生産モデルであるがゆえに、希少価値という点においてはポルシェ社が次々と発売する限定車以上といえます。1980年代後半から1990年代に掛けて、割合からすれば相応の個体が日本上陸を果たしている(CTR1は、30台中11台が生息していたといわれる)現状があります。メディアなど、表に出ない911系のコンプリートモデルであれば、ほとんどの種類が生息している(生息していた)と見ていいのではないでしょうか?
いまや、日本人が所有するクルマは良質な個体があることは世界のバイヤーが知るところです。国内から良質な個体が持ち出されていることが広く知られるようになってきました。フェラーリやランボルギーニなどのスーパーカー系はもちろん、国産旧車、軽トラックまで持ち出されています。
有名オークション市場にRUFがエントリーされてない理由を考えてみる
RMオークションやボナムス、グッディング&カンパニーをはじめとする名車のオークションでも、RUFやAMG、アルピナなどのチューニングコンプリートカーが顔を出すことはほぼありません。最近だと、2017年3月に開催されたボナムスオークションで、リスター・ジャガーXJSが400万円ほどで落札されましたが、決して高評価というわけではありません。その一方で、ポルシェ911の限定モデルは、ピーク時ほどの値はつかないとしても、高い人気を誇っています。
加えて、水冷エンジンを搭載した911の限定モデルが早くも高評価を得る時代となりつつあります。やはり2017年3月に開催されたグッディング&カンパニーのオークションでは、GT3RS4.0(997型)が、およそ8,600万円という値段で落札されています。今後、911スピードスター(997型)など、近年の限定モデルが脚光を浴びる時代が訪れる予感がしてなりません。
●日本に現存するRUFはこのまま留まり続けられるか?
RUFコンプリートカーは、当時の熱狂を知る世代へと受け継がれていますが、それ以上の熱量を海外勢が持っているようにも思えます。日本人がファーストオーナーだった個体が、RUF本社へ里帰りを果たした例もあります。このCTR1ライトウェイトモデルがそれにあたります。
●1989 RUF CTR 012
http://www.rufregistry.com/car-details/201/
こちらは、海外のRUFコンプリートカーの販売車一覧
●RUF STOCK LIST
http://www.jeremycottingham.co.uk/stock/ruf-stock.asp
参考までに、日本で売られている(されていた)RUFコンプリートカーを挙げてみました。
画像提供:カレントライフ (撮影/江上透)
●RUF CTR 正規ディーラー車 6Speed(後期モデル)/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_1748.html
●RUF CTR CTR 6MT 未登録車/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_659.html
●RUF CTR CTR ラグジュアリー No,007/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_250.html
●RUF CTR イエローバード 5MT/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_802.html
●RUF CTR RTC物(旧石田エンジニアリング)/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_853.html
●RUF CTR ライトウェイトバージョン/SOLD
http://www.wide19.com/vcsMember/stockdetail/914-1_692.html
●RUF CR4/ASK
http://www.ruf-web.co.jp/active/com/1020.php
●1996 RUF CTR2 Racing/SOLD
http://www.bingosports.co.jp/archive/detail_11.html
●1997 RUF CTR2 “Kleeblatt”/SOLD
http://www.bingosports.co.jp/archive/detail_43.html
●RUF CTR 2 6Speed RTC正規輸入/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_1341.html
●RUF BTR2 国内正規輸入6台のみ/SOLD
http://www.garagecurrent.com/ruf/btr2/732/
●RUF CTR 2 COMPLETECAR RTC物(旧石田エンジニアリング)/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_1028.html
●RUF Rt 12 COMPLETE CAR/SOLD
http://www.autosports.jp/vcsMember/stockdetail/384-1_1846.html
●R Turbo RUF Conversion/898万円
http://technicalmate.co.jp/carsales/
●RUF 3400 K COMPLETE CAR 6Speed (アークティックシルバー)/898万円
http://www.carsensor.net/usedcar/detail/CU4781034166/index.htm
●RUF R-Turbo 550PS (Narrow Body)/ASK
http://www.ruf-web.co.jp/active/com/1019.php
●RUF Rt12 650PS Black/ASK
http://www.ruf-web.co.jp/active/com/1018.php
こちらの個体はコンバージョンモデルですが、1990年名古屋博に展示されたスペシャル仕様のカレラ4をベースにRUF RCT Evoとして生まれ変わった超レア&マニアックモデル。これこそ、世界に1台の仕様といえますね。
●964 Carrera4 RCT Evo
http://www.ruf-web.co.jp/active/conv/2020.php
これ以外にもストックリスト落ちした個体がいくつも存在します。その嫁ぎ先は日本国内かそれとも海外か・・・。気になるところです。RUFというクルマ自体がマニアックな存在なのか、それともいちチューニングメーカーという位置付けの評価に留まっているのか、あくまでも推測の域を出ませんが、世界のオークション市場ではいまのところほぼノーマークです。しかし、いつ火が付くかは分かりません。元々、生産数が非常に少ないモデルなので、狭い世界ゆえに「どの個体がどの国にある」くらいの情報はインターネットで調べられてしまう時代。日本に生息するコンプリートカーもどうなるか分からないのです。
ひとついえるのは「意識して残さないと、あっという間に日本からRUFコンプリートカーがなくなってしまう時代が訪れる可能性がある」ということを最後に記して記事を締めたいと思います。